公立大学法人 兵庫県立大学大学院シミュレーション学研究科

ニュース
News

2020.04.15

修了生の井池 祐貴さん受賞のお知らせ

修了生の井池 祐貴さんが、2019年度日本トライボロジー学会学生奨励賞を受賞しました。
本賞は、日本トライボロジー学会において1年間で最も優れた研究成果を挙げた学生会員に対して与えられる賞で、本年は東京大学、東京理科大学の学生とともに本学の井池さんがいただきました。受賞内容は以下の通りです。

金属表面におけるリン酸エステルの初期吸着過程の分子動力学シミュレーション

本研究は分子動力学法を用いて極圧添加剤の代表的化合物であるリン酸エステルの金属表面への吸着および拡散挙動を解析したものである.

リン酸エステルは通常モノエステル,ジエステルの混合物で使用され,各エステル単体に関する知見は少ないのが現状である.実験からジエステルと比較してモノエステルの方が優れた摩擦摩耗特性を示すことはわかっている.しかし,この特性の発現要因は明らかとなっていない.そこで本研究では,モノエステル,ジエステルの物理吸着特性の理解および基油中の拡散挙動解析のため分子動力学シミュレーションを行った.

本研究ではまず,リン酸エステル単体の吸着および拡散挙動に着目するために基油を含まない系でシミュレーションを行った.この結果,モノエステル,ジエステルともに金属表面に吸着後,分極の強いリン酸基の相互作用から会合体を形成することがわかった.また,添加剤分子の二乗変位の測定結果から,初期吸着過程においてジエステルと比較してモノエステルのほうが優れた表面拡散性を示すことが明らかとなった.

次に基油中における拡散挙動に着目するために基油を含まない系でシミュレーションを行った.この結果,基油を含まない系における結果と同様に,モノエステル,ジエステルともに会合体を形成することで逆ミセル化し,安定した状態で基油中を拡散するという結果が得られた.また,基油中における拡散性もジエステルと比較してモノエステルのほうが優れているということが明らかとなった.

添加剤分子同士が会合し,安定した逆ミセルを形成し拡散するといった挙動は,油性剤を対象とした先行研究では見られなかった極圧添加剤特有の挙動であり,これが両者の違いの物理化学的起源と考えられる.

以上のように本研究では,リン酸エステルのモノエステルおよびジエステルの吸着および拡散挙動を解析し,モノエステルおよびジエステルの金属表面および基油中における拡散性の違いを明らかにした.本研究の結果と実験結果は少なくとも定性的に一致しているといえ,モノエステル,ジエステルの摩擦摩耗特性の違いは,本研究で示された拡散性の違いから説明することができるという推論が得られた.今後は,より広範な分子構造を有する極圧添加剤において同様のシミュレーションを行うことで添加剤の研究開発における更なる発展が期待される.

対象論文:トライボロジー会議 2019 春 東京 E6.

井池 祐貴 氏