公立大学法人 兵庫県立大学大学院シミュレーション学研究科

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2019.05.20

修了生の西川航平さん受賞のお知らせ

修了生の西川航平さんが、2018年度日本トライボロジー学会学生奨励賞を受賞しました。
本賞は、日本トライボロジー学会において1年間で最も優れた研究成果を挙げた学生会員に対して与えられる賞で、本年は東京理科大学、東北大学の学生とともに本学の西川さんがいただきました。受賞内容は以下の通りです。

分子動力学法による腐食防止添加剤の銅および酸化銅表面への吸着特性解析

本研究は、分子動力学法を用いて銅腐食防止添加剤における吸着挙動を解析したものである。ベンゾトリアゾール(BTA)をはじめとする銅腐食防止添加剤は、半世紀以上の研究開発の歴史を有するにも拘わらず、その分子レベルの作用機構はほとんど明らかではなかった。これは、銅新生面および酸化銅表面の界面科学現象であること、また BTA は低分子ではあるが、表面の保護は、多数の分子集団における電荷移動を伴う化学反応プロセスであるため、理論的に適切に扱う方法がこれまでなかったためである。

理論化学における従来研究は、単一の BTA 分子が銅または酸化銅表面に吸着する際の結合状態の量子化学解析、あるいはその際の雰囲気効果の分子動力学解析のみであった。本研究では、ReaxFF という電荷移動を現象論的に扱うことが可能な分子動力学手法を用いて、この問題に取り組んだ。この手法は、シュレーディンガー方程式を直接解くのではなく、経験的なパラメータにより分子内・分子間相互作用および電荷移動を扱うため、従来の量子化学計算よりも軽いアルゴリズムであり、多数の BTA 分子の表面吸着について、物理吸着・化学吸着の両面から扱える。

さらに、本研究の特色として、一つのシミュレーションセルに銅新生面と酸化銅の二領域を有するハイブリッド表面モデルを考案したことが挙げられる。この系において、バルク中から表面に向けてBTA 分子を降らせることにより、銅新生面・酸化銅のどちらの側に吸着するか、すなわち選択的吸着現象を直接観察することができる。吸着過程の観測のみならず、吸着した分子の部位、配向、表面拡散、電荷移動などの解析を実施した。

この結果、BTA 分子は当初は両者の面に付着するが、次第に、銅新生面側についた BTA が電荷移動により分子内の分極率を上昇させ、周辺の BTA 分子を呼び寄せ、結果的に銅新生面側の BTA 分子数が酸化銅側と比較して大幅に増大するという、選択的な吸着加速機構を初めて発見した。以上のように本研究では、銅腐食防止添加剤の作用機構を、原子レベルの解析で明らかにした。この機構は、銅腐食防止添加剤に限らず、様々な化学吸着現象において関係すると考えられ、トライボロジーおよび表面科学の発見として大変有意義であるといえる。また、本手法を用いて様々な添加剤の分子設計に用いることが可能であることも示した。

対象論文:西川航平,秋山博俊, 八木下和宏, 鷲津仁志, “分子動力学法による腐食防止添加剤の銅および酸化銅表面への吸着特性解析”, トライボロジー会議 2018 春 東京, 国立オリンピック記念青少年総合センター, 東京, 301 (2018. 5. 21).

西川航平氏

授賞式(2019年5月20日:日本トライボロジー学会総会).